森田の映画記録

観た映画を記録していきます。

13 万引き家族 / 是枝裕和

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邦画が嫌いな理由の一つに「役者の演技がサムい」っていうのがあるんだけど、これは私が日本語ネイティブだからサムく聞こえるのかな? っていう「自分が悪いのかもしれないシンドローム」を、樹木希林安藤サクラはぶち壊してくれる。「そう!!!!! 日本の俳優は!!!!!! おしなべて演技が下手!!!!!! 私たち以外は!!!!!!!」と。本当にこの二人すごいなあ。樹木希林安藤サクラも、出てくるだけで「キャ〜! 出てきた〜!」ってドキドキしちゃった。

 

この映画はさすがジャパニーズっていうかんじで、一貫して「男には救いがあるんだけど、女にはない」っていうのを貫いている。男はグズグズで、女は働いていて、女はグズグズの男が生きていくための補佐に回るか、「悪役」になる。男で悪役っていましたかね? 松岡が風俗店の客と恋愛関係に陥りそうになるシーンなんて最悪だなと思った。あれってどういう意味があるの? あれは風俗店の帰り道に出くわした男と恋に落ちる、とかでよかったんじゃないのか。現実のセックスワーカーの方にも迷惑な描写じゃないですか、と思った。とにかく女という性への憧憬みたいなのが見ててキツい。安藤サクラ樹木希林の演技力が高すぎるから、監督の想定を超えている感じでよかった。この二人が出ていなかったら私はこの映画を「ゴミクソクズ映画」くらいは言ったと思う。

 

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リリーフランキーがなんか変なきたねえオッサンみたいな感じでコロッケ買い始める冒頭を観て、「ああこの映画はどうやって終わるんだろう」と思った。映画は、映画だから、そのうちエンドロールが流れると思うんだけど、そのエンドロールの1秒手前、ラストシーンはどうなるんだろう? と思った。あまりにも「終わることが不可能な日常」だと思ったから。

というのも、手前味噌っていうか自分の話するんだけど、私、小説を書いてるんですよ。これね。(森田さえ 育児と小説|note

それで、書くときのテーマが、「だいたい年収が200〜300万ぐらいの人」っていうのを想定している。万引き家族の人らはこれよりもうちょい下だと思うんだけど。

お金がないから引っ越せない、知識とか学歴とか技能とかがないから転職できない、なにしろ教育を受けることに価値があるという概念がそもそもない、ここで生きているから明日もここで生きていく。変化は訪れず、社会が悪くなればそれに合わせて暮らしも悪くなり、逆もまた多分然り。

 

アニメのジャンルで「日常系」っていうのがあるじゃん。終わりなき日常をダラダラ描くみたいな。そういうのに対して、「終わらせられない日常」っていうのがある。小説とか映画はこれまで割と、「一発逆転のチャンス」とか「頑張れば報われる」みたいなのがあったと思う。でもそうじゃなくて、もう生きてるだけで精一杯で、チャンスなんてこの先もずっと来ないし、生まれた時点で詰んでる、みたいなことがあると思う。そこには「筋」がないから、映画にも小説にもしづらいと思う。

 

だから、この映画は、冒頭からすごく不穏だと思った。不穏な音楽もかかってるし。もうこの「家族」に「オチ」を付けないといけないとしたら、破滅しかないんだろうなと思った。でも単に破滅させてお涙頂戴、みたいにするのは樹木希林安藤サクラの無駄遣いじゃない? と思いながら観てた。

 

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ところでこの映画、「万引き家族」っていう名前がついてるけど、6人のメンバーの中で万引きするのは(主に)2人だけなんですよね。メンツは、樹木希林松岡茉優安藤サクラ、佐々木みゆ、城桧吏(男の子)、リリーフランキーなんだけど。樹木希林は遺族年金暮らし、松岡はまあオナクラってか、まあそういう感じの風俗? 店、安藤サクラは工場勤め。

 

リリーフランキーが万引きをしていて、それを城桧吏(男の子)にもさせている。他のメンツはそれに恩恵こそ受けているものの、万引きはしてない。ある日虐待を受けている子供(佐々木みゆ)を拾ってきちゃって、どうする? っていうので「何か役に立つことをしたほうがいい」ってリリーフランキーが言って、佐々木みゆもちょっとだけ万引きの片棒を担ぐ。

 

家族っていうのか、家父長制っていうのは、男の権力を一気に高める役割を持つ装置だ。家族を持てば、いきなり男は「家長」になれる。リリーフランキーは映画の中で一貫して「現実が見えてないやつ」として描かれていて、誰よりも家族の崩壊に鈍感。「父ちゃん」の称号を捨てるのがすごい遅い。この映画のタイトルが「万引き家族」なのはそういうことかと思うんだけど、いや実質リリーフランキーだけが万引きしてるんだよ、子供達も万引きしてるけど、それはリリーフランキーが強制してやらせてることだから。リリーフランキーのやることが「家族のやること」っていうことになっちゃってる。それはリリーフランキーの意識の中でそうなのかもしれないんだけど。

 

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うーん、まとまらんねえ。批判的に書いてるけど、観たあとは「いい映画だったな」と思ったんだ。でも、いい映画だったなって思っちゃいけないんだよな。こういう現実ってもっとクソッタレだし、絆だのなんだので誤魔化しちゃいけないんだよな。